蓮沼執太 | Shuta Hasunuma

1/31 2021

Date

2021.01.31

プレパレーション
作業している時間と、出来上がる作品の内容、およびその内的批評は、制作時間と密接に関係している。

朝。
真夜中にやっていた素材を再度引っ張り出した。
午前中からコツコツと録音作業をする。昨晩は音を引いていく作業をしていき、今朝は音を足していく作業をした。

昼。
お昼くらいにその音源を一回ラフで仕上げてスタッフに送信。ご飯食べた後にスタジオのレイアウトを変えみた。機材は多い方ではないけど、より直感的に作業出来るように切り替えた。

夕。
あっという間に夕方になり、河合宏樹監督と今年何度目かのミーティングを河合くん家で。

内容。
ほぼ映像と音のバランスは出来上がってるが、色々な意見が飛び交っているから一度直接会ってミーティングをした。同席してくれたLILY SHUさんとも意見交換をする。LILYさんの姿勢は凛々しかった。理論的で現実的でもある故に、パワーが詰まった完成度高い作品を提示している。この姿勢には自分も創作するパワーをもらった。

そして、河合くんから感じる非効率でも地道にプロセスを記録していくことへの執着には驚くものがある。河合くんが手掛けた作品『うたのはじまり』でコメントを書かせてもらった。

「本能的な眼差し。人間が持つノイズ。河合宏樹は違和感から世界を繋ぎ、均質化を壊していく。」

このコメントでの河合くんの印象も、作業を一緒にしていくにつれて更新されていき、新しいフェーズに入っていく感じがする。想像力が増していって、楽しくなってきた。

様々な声を聞いて、目に見えない音楽を作り上げていく、という基本姿勢を崩せないのは、単純に楽しいから。

風呂あがりに Jorge Lopez Ruiz 5 という72年録音を聴いてた。再発レコードも持ってたはずだけど、いまは倉庫にあって発見できそうもない。

1/30 2021

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2021.01.30

車に乗るときにシェアカーを使っている。自家用車を持っているわけではなく、数年前のニューヨークへ行ってから日本に居るときはレンタカーではなく、ずっとシェアカーを使用している。今日は遠くに出かけるわけでもなく、車に乗って無心的になる、気分をサッパリしようと思った。

道路というのは不思議で、社会のルールを全員が守ることで秩序が保たれている。そんなの当たり前だけど、日本において全員の中でわずか1人だけでも右車線で車を走らせたら、それだけで大変なことになる。先日仕事で小田原に行ったときにも、駅前や城下町辺りは一方通行だらけで、これは運転が難しそうだなぁと思った。タクシーの運転手さんは「初心者には難しい街だよ、運転がね。」とも言ってた。

車を運転する人間全員が人間が作ったルールに従い、全員の動きに同調していきながら、目的の場所に移動する手段でもある。自分が生まれる前からある制度を疑って、時代の流れに合せていくことで全体を変えていく。そういう基礎的な「制度」という代謝も必要だよな、とか思ったりもした。交通に関してだけではなく、自分が生きている身の回りでもいくらでも制度を変える必要がある。そういったことを声にすることも大切で、少しずつでもいいから変えていく実行力も必要な気がする。そんなことを少し考えたけど、好きな音楽をシャッフルで聴きながら、運転をしてサクっと用事を済ませた。写真は西日本の海。

シャッフルで音楽を聴いていて面白かったのは、Herbie Hancock / Rain Dance だった。

朝方にリリー・シューさんから音楽を担当するラフ映像が届いていた。今日は1日中、時間を見つけては何度か繰り返して観ていた。夜に作業する時間が出来たので、映像に合せながら音を作っていく。作っていく、というよりも予め作っていた音をどんどんと消していく作業。なかなか面白いものになりそう。

これを書いているときにSOPHIEがアクシデントで急死したニュース。同世代のミュージシャンが居なくなるのはさみしい。先日のオウテカのリミックスも最高だったのにな。

1/29 2021

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2021.01.29

祖母が今日誕生日である。そんな日に、おばあちゃんの入院という知らせをもらった。去年から2回ほど入院していて、今回が3度目。目眩が出てしまい、不安になるから入院をするということのよう。なかなか会えない状況でもあるし、とても心配である。

制作していた音楽を聴いてもらったら、とても良い反応だったので、こちらは安心した。やっと次のプロジェクトに進むことが出来る。

天気が良かったから散歩をした。公園に行ったりして、いつもより意識的に呼吸をしたりした。

1/28 2021

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2021.01.28

ピエール・ブーレーズの書籍や言葉というのは、常に自分の近くにある。ふとしたときに発見すると、以前とは違った理解がある。それは自分の変化でもあるんだと思う。再発見というやつ。

フランスの神経生物学者ジャン=ピエール=シャンジュー、作曲家のフィリップ・マヌイとの鼎談でのこと。音楽様式が革新され、コンピュータも導入されているが、ブーレーズは音楽の進歩という考えを持ち得ていない、という話。ブーレーズは進歩ではなく、変遷があると言ってる。

「ブーレーズ:私たちが音響の領域で受け取る多少とも無用な大量の情報を前に、個人に可能な有効な唯一の対応は自分独自の要求をすること、つまりありきたりのものの甘受を拒絶することです。個人的に選別を行ない、重要な、主要ですらあるものと、文字通り過渡的なもの、浮薄なもの、さらには迷惑なものとを識別する必要があります。」

それを受けて、マヌイが「音楽の実践が他者に耳を傾ける能力を助長すること」と述べている。

今日は東京でも雪が降っている。

1/27 2021

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2021.01.27

人と会うことは気持ちがいいものだと思う。
現実に同じ時空間で会って言葉を交わすことは気持ちがいいことだと思う。

目的があるのだから必然で会っている。でも、言ってしまえばそのすべてが無駄でもあり、そのすべてが大切に感じる。それがとても瑞々しい。これは僕だけの話だけではないと思う。表情や感情と接しながら話をする機会が少なくなっているから希少にも感じる。でも、実際に貴重である。他者と共有している自分の時間とは何か?と問われることが続いている。

今日は、GINZAソニーパークで開催している『Silence Park』の話だったり(現在はお休み中)、展示作品に関しての内容の話や今年のスケジューリングなどを話たり。とても有意義な時間だった。直接会って話すことっていうのは、常々話が脱線していき予定していない情報交換になることが多い。これはオンライン・ミーティングとの対比があるからこそわかってきたこと。逆もまた然りで、オンライン・ミーティングで予定していない内容の話だけを膨らましてしまうのは、全員が共有して非合理になってしまう空気も作ったりしたり。まあ、時と場合によって変化していきますね。

そんな心地の良い縁で、広尾になるチェコセンターで、イジー・コヴァンダ『On Paper』を観る。僕の事務所と一緒のスペース「青山目黒」でも同時開催で『On Air』が開催中である。50代後半でもある作家は社会主義を生きた上でパフォーマンス・アートを行ってきた。美術教育も受けずに、その時にただアートをやりたかったからやっていただけ、とセンターの方は仰っていて、姿勢の潔さに感銘を受けた。目に見えない制約の中で生きながら、そして訴えながら、さらに自然の振る舞いとして芸術をしていくこと。ドローイング(ペインティング、イメージ・コラージュ)もモティーフの抽象さはあるけど、同時に作家の直感と意思を感じさせるミニマルな展示だった。

その後の夕方から、また籠もって作曲作業に。とりあえずラフを作って、それを聴きながら近所を散歩した。荒い部分はあるけど、そろそろ自分の手元を離したくて、夜に送信をした。こういう「放つ」作業は上手じゃない。自信が無くてどうしても理論で守って、自分を固めたがる気持ちもあるけど、それは本質じゃない気がする。もちろん、いつも自然でいることは難しいし、心細い。

そんな経験からも、自分で作って、それを放って、声を聴いて、それを感じたり思ったりして、相手に伝える、ということを、ずっと繰り返している。それが制作をすることでもある。いつも誤読や衝突などいろいろな解釈を発見して受け入れる。それがコミュニケーション。誤読の連鎖だって大切なコミュニケーションだと思う。

1/26 2021

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2021.01.26

2020年は時間の流れ方が異常じゃないほど、速くなったり遅くなったりと、不安定だった。日々の出来事をこうやって書いていこう、と思ったのも、不安定さを記述していくことでもある。時間の流れの不安定さを、自分の動きを通して綴っていき、記録する。

朝はローズポークという茨城の銘柄豚肉(http://www.ib.zennoh.or.jp/rosepork/contents/rp.html)にソーセージとサラダのサンドウィッチなどを食べた。午前中は溜まっていたメールを返していたら昼に。

昼からは、4/23 オーチャードホールのスタッフミーティング。映像の島本塁さん、美術のHYOTA、照明の佐藤円くん、制作の清宮陵一さん、アニーというメンバーで長めのミーティング。オーチャードホールでの空間で起こること、配信公演になったときの流れをしつつ、全員の意見を聞いたり、述べたりと。オンライン会議はどうしても無言の方が多く出てしまうけど、それでも時間を共有しているということは大切だと思ったり。

ミーティング後に遅れているプレイリスト連載のフィニッシュを時間かけて行った。テーマも重めの設定にしたために、事実確認などをしていたら時間があっという間に過ぎてしまった。来月には公開になると思います。自分が影響を受けた「メッセージ」の音楽。

写真家のリリー・シューさんからも作品についての意見交換をしたり。

夕方からは、徳井直生さんと田中堅大くん(蓮沼フルフィルのメンバー)とオンライン・ミーティング。こちらも昨年秋ごろからちょこっと話していたプロジェクトで、やっと本格的に動く段階に入って色々とディスカッション。僕がアイデアやプロセスをまとめていたことを話して、それを受けて徳井さんからも音をいただいて、今も思考している。徳井さんの新著『創るためのAI — 機械と創造性のはてしない物語』はその名の通りAIについて書かれた本だけど、いわゆるテクノロジーに偏った視点ではなく、あらゆる作り手が読んで、各々が自分のテリトリーで思考を促すような余白を感じる書籍。自分の中にあるAIという固定概念を取り払って読み進めている。

ということで、夜はやっと少しだけ作曲する時間を持てたけど、さすがに集中が続かなかった。いろいろな人と話して、テキストを書いてまとめた1日だった。

1/25 2021

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2021.01.25

今日も都内の施設のための音楽作業の続きをしていた。4曲形になってきた。この音楽に関しては、どこかのタイミングでしっかり考えてることを書こうと思っている。自由にやっているけども不思議な感覚で制作している。自分が制作している時間軸だったり、今の音楽を録音するムードも影響しているんだと思う。

去年の緊急事態宣言よりも、今回の状況下では読書をする機会が減っている。制作をしている時間が圧倒的に増えている。前は未曾有な事態を好転として扱って、自分の時間を豊かにしよう、自分自身を見つめ直そう、という気分もあった。今回も緊張感があるけど、より形に残していく姿勢が自分の中で強く出ているんだろう。

1/24 2021

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2021.01.24

今日も雨。昼間は楽曲制作の続きを。メールニュースをやっていて(https://mailchi.mp/2ec1a281cf82/shuta-hasunuma)ことし最初のご連絡をしたり。夕方は長いミーティングをして、夜は友人の誕生日を祝った。寒い街中を歩くのが久々な気がした。写真はニューヨークの家の近所。

1/23 2021

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2021.01.23

新しいコーヒー豆を買っていて、今朝から淹れ初めた。焙煎したてのコーヒーはお湯を注いだときの泡立ち良いのが好き。まず何か事象が発生している雰囲気を感じる。視覚的にも良い。そして、コーヒー粉が出す声が小さく聞こえる。その音にイキイキさを感じる。それを聴くと、今日も頑張ろう!とお互い言い合っている気になってくる。久しぶりの雨。低気圧が結構キツくて音楽を聴いていた。なぜか、Nicolas Jaar と Hildur Gudnadóttirをループして流し聞きをしていた。そういう気分だったんだろう。

1/22 2021

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2021.01.22

何かと忙しい日だった。まず4/23開催のオーチャードホール公演『○→○』のチケット先行がリリースされる。蓮沼執太フィル2021として、最初の公演。コロナ禍での挑戦という気持ちだし、大きく暴れて楽しくコンサートを作りたいと思っている。夕方はTBSラジオのライムスター宇多丸さんがMCをつとめる「アフター6ジャンクション」に生出演。事務所から電話で出演。先日、ゴンドウさんのスタジオでセッションしたフィルのライブ音源なども放送される。とても気持ちが良い番組でした。そしてそして、夜9時にはフィルの新作MV『HOLIDAY feat. 塩塚モエカ』が公開。瀬田なつき監督が手がけてくれました。瀬田さんとは年末からアイデアを交換しつつ、僕からのリクエストは無く、すべてをお任せして制作してくれました。新宿と2人が邂逅していく設定はとてもおもしろい。