Shuta Hasunuma Philharmonic Orchestra talks about『symphil』part1

『symphil | シンフィル』のどこが新しい?

『symphil | シンフィル』のどこが新しい?
編集・インタビュー
金子厚武

蓮沼執太フィル、5年ぶりのニューアルバム『symphil | シンフィル』。
タイトルは蓮沼による造語であり、「sym」は「共に」、「phil」は「何かを愛する」という意味。これらを繋ぎ合わせ、「新しいフィル」というニュアンスを込めて、このタイトルが付けられている。

蓮沼

「共に」とか「何かを愛する」ということを考えてること自体が僕にとって新しいんです。フィルのメンバーは基本放置してるんですけど(笑)、みんないろんな環境で活動していて、人間関係もそれぞれができていって、「人生っていろいろあるよね」って感じもあるし、「常に、未来がやってくるとは思うなよ」っていうのもある。コロナとか戦争からも大きなレベルで受けてるところもあると思うんですけど、それがアルバムの価値観を作っていったというよりは、そういったことも含めて、フィルのメンバーとの関わりとか、人間臭い部分がアルバムの背景としては大きいと思います。

では、フィルのメンバーはそれぞれ『symphil | シンフィル』のどこに新しさを感じているのだろうか?
多くのメンバーが挙げたのは「ライブを前提としない制作」だ。

三浦

前の2枚は「ライブでやったことをパッケージしよう」という感じで作ってたと思うけど、今回は「作る段階ではライブのことを考えずにやろう」と言ってたのが新しいと思います。曲によってはどうなるかわからないまま録って、できあがったのを聴いて、「こうなったのか」みたいな。それは過去になかったですね。

手島

ライブをせずにいきなりレコーディングをするのは初めてだったけど、すごくスピーディーに進んで、「フィルも年月経ってるんだな」と感じました。

宮地

録音から完成までに一年くらい間があって、最初の録音以降の過程は全然知らされず、普通に日々を過ごしていたら、忘れたころに「はい、できました」と来て。それを聴くとだいぶ様子が変わったものに仕上がっていたのが面白かったです。

2019年から楽曲の制作を開始し、完成を迎えたのは2022年の冬。
シンセサイザーやエレクトリックドラムが多用され、エンジニアの葛西敏彦と蓮沼によるポストプロダクションも加わることで、楽器の録音時からは大きく様変わりした楽曲が並ぶこととなった。

斉藤

蓮沼くんのシンセの分量が多くなって、そこでのクリエイションが作品により反映されるようになったのは新しい部分だと思います。今までのフィルの作品は録音した音にわりと忠実だったと思うんですけど、そこにもう少し彩りが加わっていて、自分の好みとしてはそっち側に寄っていってるのがすごくいいなと思ってます。

イトケン

アルバムを作るちょっと前から「生ドラムじゃなくて、エレドラでやってみよう」という話を蓮沼としていて、実際そうなったので、そこは新しいことになってるなって。

大谷

今回はポストプロダクション多めというか、今まで以上に一曲一曲丁寧に作られていて、そこは葛西さんと蓮沼くん中心でやっていて。前作・前々作はわりとかっちりアコースティックの音像で作ることを考えてたと思うんですけど、今回はそうじゃない。

葛西

ミックスの時間はこれまでで一番長かったです。もともとフィルはライブバンドだと思っていて、ライブをやるために集まって、ファーストのときはそれをそのままパッケージする感じだったけど、それが段々逆になっていって。今回はあくまで曲ありきで、ライブのことは後から考える。もともとは一発で演奏できる曲しか入ってなかったけど、今回は「これをライブでどうやるんだろう?」という曲もあって、そこが楽しみでもあります。

『symphil | シンフィル』のどこが新しい?

変化の背景にはいくつかの要因があり、まずはやはり2020年からのコロナ禍によって、フィルのライブの回数が減っていたことが挙げられる。そして、結果的にコロナ禍の最中にリリースされた蓮沼執太フルフィルによる『フルフォニー | FULLPHONY』で従来のフィル的な表現を突き詰めると同時に、アルバム後半にリミックスを収録していたのは、電子音への接近が予告されていたようにも感じられる。また、蓮沼はアルバムにも収録されている羊文学の「マヨイガ」をリワークしたことが、本作の方向性に影響を与えたと語る。

蓮沼

2021年4月のオーチャード公演を終えて、羊文学の塩塚モエカさんから「『マヨイガ』のアレンジ曲を作ってほしい」というオーダーがあって。そのタイミングで電子音を入れたり、イトケンさんからも「ライブでも生よりエレドラ系でいってみる?」という提案を受けたりして。それから「マヨイガ 」のリワークを完成させて、その後に行った全体レコーディングで「Eco Echo」、「#API」、「呼応」などを録音して、その年の12月に「Eco Echo」ツアー、大晦日に渋谷WWW公演という流れ。なので今思えばですけど、「マヨイガ 」のリワーク制作が今回のアルバムのサウンド面の基調になっている気もします。

もうひとつ、『symphil | シンフィル』の新しさに大きく関係しているのが、メンバーの入れ替わりだ。
2019年にそれまでボーカルを担当していた木下美紗都がフィルでの活動を休止したことを受け、これまで主にフリューゲルホルンを担当してきた三浦千明が5曲でボーカルを担当。また、笙/雅楽奏者の音無史哉が新たに加入して、現在のフィルは全15人の編成となっている。

ゴンドウ

今回は録音をしてから間があったので、完成したものを聴いて、「この曲全然知らない」とか「この曲で何やったっけ?」とか、そういうのも面白かったんですけど、やっぱり「新しさ」ということでいうと、音無くんが入ったり、千明が歌い出したのが大きいですよね。

K-Ta

きのぴー(木下)や環ROYくんがいるフィルのイメージを持っている人も多い中で、どうまた違う方向に持っていくかという意味で、僕は千明の歌がすごくいいと思いました。「もっと早く歌えばよかったのに」と思うくらい。

尾嶋

ボーカルが千明になったのは大きくて、歌が本業じゃないからこそ、「ボーカルとそのバック」という距離感じゃなくて、より「バンド」になった気がします。

音無

僕はもともと葛西さんと別プロジェクトをやっていたんですけど、劇伴(蓮沼が音楽を担当したNHKよるドラ『きれいのくに』の劇伴。フィルのメンバーも録音に参加)のときに声をかけてもらって、そこからの流れでフィルに入ることになって。なので、今回のアルバムは新人としての集大成です(笑)。

千葉

メンバーが少し変わったり、楽器のコンバートもあったりして、それぞれのプレイヤーの個性が出てきたんじゃないかな。今まではそれがあるようでないというか、全員が全員日の目を見てる感じではなかったと思うんだけど、全員が均等に光を浴びてるというか、全員にフォーカスされた感があって、そういう新しさはあると思います。

「ずっとIMI」はメンバー全員が録音に参加せず、蓮沼がベース、リズム、鍵盤、シンセサイザー、エフェクトなどを組み立て、そこに千葉広樹による弦楽四重奏アレンジが重なってできあがった一曲。こうした自由度の高さもアルバムの特徴で、小林うてなは一時全体レコーディングの参加を辞退し、後日別録りをしたというのもこれまでにはなかったことだ。

小林

いろいろ考えて、レコーディングの前日に「明日は行きません」と言ったんですけど、結果的には音を入れさせてもらって。だから、みんなと曲との距離感が違うのか、今回の曲はすごくポップに聴こえるんです。今ままでは懐かしさとか記憶的な部分のパーツが多い印象だったけど、今回演奏した感じとしては、現在地点にいる感じがします。

この小林の感想は、蓮沼と最初期から活動を共にする石塚周太の発言とリンクする。

石塚

「シンフィル」には「新しい」という意味もあると思うんですけど、僕は「今」と捉えていて。フィルのメンバーはみんな長いこと友達なんですけど、ここ数年は全然会わなかったり、ひさびさに会ったり、ちょっと時間が歪んだような感覚があるんです。「シン」だって、時間を経たら過去になりますしね。そういう中で、それぞれの価値観の違いとか、それぞれの時間の捉え方の違いが「今」出てる。僕はそういう意味合いだと感じてます。

『symphil | シンフィル』は間違いなく「新しいフィル」のアルバムだ。しかし、「時を奏でる/時が奏でる」という意味では、これまでの蓮沼の活動と地続きの作品であることも間違いない。蓮沼の語るタイトルにまつわるエピソードが、それを裏付けているように思う。

蓮沼

もともとタイトルは『音楽からとんでみる』にしようと思ってたんです。このタイトルはこれまで僕が定期的に使ってきたもので、2011年に東京都現代美術館の特設パビリオン展示室でちょっとした個展をやらせてもらったときに初めて使い、2014年にそれまでの活動の記録を本にまとめたときもこのタイトルを使ったし、初めてフィルのアルバムを出して、スパイラルで2デイズ公演をやったときもこのタイトル。これまで活動の区切りでこのタイトルを使ってきたので、今回それが似合うと思ったということは、そういうアルバムなんだろうなって。

本当につい最近まで『音楽からとんでみる』にしようと思ってたんですけど、ちょっとだけナラティブ過ぎるというか、個人のコンセプトにスポットを当てている気がしてしまって。アルバム自体を描写していないから、もう少しこのアルバムに対して名前をつけてあげようと思って、それで『symphil | シンフィル』になったんです。でもデザイナーは前のタイトルでデザインを進めてるから、先行で配信された「GPS」や「1/2 SLEEP -半分寝てる-」のジャケットを見ると、ちょっととんでるんですよ(笑)。