八木皓平による批評(Disc4)

蓮沼執太のインストゥルメンタル・ミュージックの土台には物語がある。この「DISC4」だけを聴いてもわかるように、彼は様々な音楽ジャンルを越境しながらインストゥルメンタル・ミュージックにトライしているが、いわゆる実験音楽に散見されるような時間の恣意性がそこには存在しない。簡単にいえば、どの曲もはじまりと終わりが明確にセッティングされており、メリハリがある。これは時間の流れを聴き手に感応させる卓越した技術と構造、そしてセンスの話だ。だから「DISC4」の中で最もエクスペリメンタルな「Communal Music」におけるアナログ・シンセやプリペアード・ピアノ、環境音の対話を聴いても、アンビエント・ミュージックにありがちなのっぺりとした時間が経過するのではなく、我々はそこからある種の物語を享受できる。グリッチ・ノイズやヴォイス・サンプルを巧妙に配置しながら、マシュー・ハーバート的な洒脱さをほのかに漂わせるハウス・ナンバー「15 Minutes Eternal」が、ロックバンドである赤い公園の楽曲「お留守番」(作詞・作曲:津野米咲、プロデュース:蓮沼執太)のインストゥルメンタルver「Orusuban」と同じ耳で全く違和感なく聴くことができるのも、彼の作曲に対するアプローチが一貫しているからだろう。音色とボキャブラリーは異なるがそこで語られる物語は共通しており、蓮沼執太が仕掛けた様々なフックによって、ぼくたちは彼の世界観に浸ってしまう。また、尺という観点から考えてもそれは同じだ。「DISC4」には1分未満の楽曲から20分台の長尺曲があるが、どれもスムーズに聴けるものになっている。これは彼の思い描いた音楽的着想が、実際にアウトプットした時間軸に相応しいものであることを示している。どんなスタイルの楽曲であろうと、時間の経過に必然性を刻印してゆくことのできるこの才覚こそが、ぼくたちが蓮沼執太の音楽を聴く理由であり、そこにジャンルの垣根は存在しないことを教えてくれる一枚といえるだろう。

八木皓平

八木 皓平(やぎ こうへい)

『iD-Japan』『OTOTOY』『Mikiki』『ユリイカ』『JTNC』『ele-king』『The Sign Magazine』、その他諸々で音楽とその周辺について書いている、茨城県つくば市在住の音楽ライター。プロレスラー八木哲大の兄。
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Disc4 収録曲一覧

  • Title Commission Type Year
  • 57
    Communal Music - Sound Installation 2016
  • 58
    Freezing Point blanClass Exhibition 2016
  • 59
    15 Minutes Eternal J-WAVE SELECTION「SHUTA HASUNUMA MEETS ANDY WARHOL」 Exhibition 2014
  • 60
    HT - - 2017
  • 61
    Keihan 鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~alternative train~ Exhibition 2015
  • 62
    windandwindows -Mohri Garden MORI Building Others 2016
  • 63
    Orusuban -instrumental “Akai Ko-en” 赤い公園 Produce 2014
  • 64
    Music for th 01 TARO HORIUCHI Collaboration 2018