作家のアンソロジーをまとめることは記録たり得ても作品としての統一性を欠いているとよく言われ、だから研究者やコアなファンの外に届きづらいという側面はたしかにあるものの、この『windandwindows』の一枚のディスクを一つの作品として聴くことができないわけではない——数多あるプレイリストがそれぞれにステイトメントを提示するように、あるいは聴くことが原理的に始まりと終わりを持ち得ないように、そもそも「音楽作品」とはいかようにもまとめ上げられる概念の産物でしかない。
　「Music for〜」と題されたトラックが大半を占める[DISC 3]においては、まずはファッション・ブランドのTARO HORIUCHIとのコラボレーション作品がずらりと並べられる。どれもピアノを基調にしたダンサブルな楽曲で、歩行するモデルとのズレを伴わなくなったサウンドはパルスそれ自体のリズムを明らかにする。ダンス・ユニットの「アルトノイ」の公演でもともと流れていた楽曲は、動く身体との相関関係を脱した言葉にならない声が、どこかロバート・アシュリーの実験的試みのように変調されながら歌を歌い上げていく。同じくダンス・パフォーマンスのための続く作品ではしかし反対に、動く身体の痕跡としての足音や物音が刻まれていて、かつて田中泯とデレク・ベイリーが残した録音を、あるいは近年の装置系インプロ・セッションを思わせる響きになっている。映画やアニメーションに捧げられた楽曲群は揺らめく電子音や発音と減衰を繰り返すギターおよびピアノといった音響的アプローチによってサウンドの質感を際立たせていく。その質感はふたたびダンサーとのコラボレーションをもとにした続く二曲でも共有されているものの、なかでもライヴ感溢れる背後のざわめきが次第に薄れふと気づくと楽器演奏の音だけになっていく「Music for Conditions in 2014」が秀逸だ。さらにポストロック風の演奏、チャーミングな二曲、〆切前日の切迫感がそのまま音になったかのような楽曲、高揚感を煽るフレーズが延々と繰り返されるあいちトリエンナーレのPV曲など、怒涛のポップ・チューンが五曲続いて[DISC 3]は幕を閉じる。
　コマーシャル・ソングから映画やアニメーションの劇伴、舞台演劇やダンス、美術、果てはファッションとのコラボレーションまでこなす稀代の作曲家・蓮沼執太であればこそ成し得た多方面での活躍が並置されたこのアルバムは、「音楽のための音楽」を追い続けるだけでは掴み取ることのできない複数の相貌を、サウンドとして切り取ることによって明かされる一貫した作家性のもとに聴かせてくれる。制約の課される恊働作業なくしては発露しなかった蓮沼のオルタナティヴな音楽的才能に浸かることのできる大作である。 

細田成嗣