蓮沼執太 | Shuta Hasunuma

アルトノイ初演を終えて

Date

2013.10.22

アルトノイ

10月18日から20日までの3日間、彩の国さいたま芸術劇場にて『dancetoday 2013 ダブルビル』島地保武+酒井はな のお2人による新しいユニット「アルトノイ」の新作の音楽を担当しました。2人は公私を共にするパートナーです。島地さんとは共通の友達がいて、その紹介で知り合いになりました。彼はウィリアム・フォーサイス主催のフォーサイスカンパニーに所属するダンサーです。フォーサイスはもちろん僕も知っていたし、日本で公演をするチャンスが少ないのでダイレクトに観ているわけではなかったけど、映像や記録資料などでも観ていたし、島地さん同様にカンパニーに所属されている安藤洋子さんの公演は何回も観てました。そんな彼がこの冬に帰国をした際、僕はちょうどアサヒ・アートスクエアで『音的|soundlike』を開催中で、最終日にインプロビゼーションで展示室で踊ってくれました。展示室での僕のサウンドたちはいわゆる具体的な音楽というよりも、たくさんの音が広い空間であちらこちらで鳴っているアブストラクトな音像でした。そこでのパフォーマンスが素晴らしかった。僕は強い踊りに出会ってしまった!って言っても過言ではなく、展示ではガッチガチにロジカル思考だったところに、強いフィジカルが入った事によって、自分の頭でっかち感が恥ずかしく思えるほどでした。その時はコンセプトに一生懸命だったので、島地さんの品やかで厚い身体の動きは衝撃的でした。

さて、アルトノイのWEBサイトは石黒宇宙さんが担当しています。彼は僕の、これから出来る(!)蓮沼フィルの、島地さんのサイトも制作しています。そのアルトノイのサイトで往復書簡が読めます。そこでも記載されているので、制作を依頼していただいた最初のメイルをここに転載してみます。2月20日のことでした。

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テーマは愛です。
いままで臭いと思ってきたことを、こんなときだから本気でやろうとおもいます。
コンセプチャルな作品でなく純粋に踊ることをしたいというのが、今回のもくろみです。

ダンスとアートを切り離して考えたいというか、とにかくダンスがしたいんです。

今回は僕(コンテンポラリーダンス)がはな(クラシックバレエ)に寄るというところからクリエーションを始めています。
クラシックバレエの名作の白鳥の湖のグランアダージョを僕が覚え、そこから崩すことをしたいとかんがえています。崩すというのは例えば振付を逆再生したり、バランスをオフにしたり、男女のパートを入れ替えたりなどです。クラシックはやはり厳密に作られていてとても理にかなっています。クラシックの素養のない僕が崩す基盤にするためにクラシックを新たに習得するのはかなり大変です。ある意味今の自分のコンテンポラリーという基盤を崩すことにも繋がってます。とても難しことを短期間でしようとしています。

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なるほどねぇ、と、島地さん、かなりチャレンジングなことをしようとしているんだなぁと、すぐにわかりました。僕は当時(今もですが)センス任せ主義やコンセプト主体の制作やから逃れたいと思っていて、ソロでは技術的に高い作品に向かいたいと試行錯誤してました。クラシックバレエの様式のひとつの『グラン・パ・トゥドゥ』に島地さんが彼なりに挑戦するということで、僕もその様式に正面から挑むように強いバレエ曲を書いていくスタンスをとりました。バレエの中では「the 王道」を僕らなりに向き合う制作になったわけですね。

とわいえ、彼はフランクフルト在住ですし、さらにフォーサイスカンパニーの一員なので、ドイツですらほとんどおらず、世界を行ったり来たりしているので、制作のキャッチボールは直接会ってではなく、メイルベースでの意見交換や自分紹介からはじめていきました。そんな関係でクリエーションを進めて来れたのはやっぱりさっき書いたような明確な姿勢が僕も十分に共感を覚えたからですね。まずは、『グラン・パ・トゥドゥ』の中から「adajo」を作曲しました。パ・トゥドゥの中の楽曲はとにかくメロディを畳み掛けるように、強くシンプルにこだわってみました。その後「coda」も作りピアノ曲のベースが出来ました。7月後半から島地さんは来日されて田町にあるスタジオ・アーキタンツにて集中的にレジデンスに入って、はなさんと一緒にクリエーションをスタートさせました。バレエのスタジオなので、セミグランドのピアノがあり、僕も即興でフレーズを弾いたり、彼らの音をその場でレコーディングをしたりしていきました。島地さん、はなさんのヴァリエーション・ソロもスタジオでの稽古のときに作ったピアノフレーズを基にしてコンポーズしていきました。

そして、ちょうど一週間前の11日に島地さんはニューヨークから帰国して、劇場入りでした。音楽の制作進行は『グラン・パ・トゥドゥ』以外の部分も楽曲は既に作り終えて、会場での複数スピーカーでサラウンドにしたので、その調整を現地で仕込んでいきました。そこでもあまり出力を細かくせず、あくまで会場の良い部分を引き出すためのサラウンドにしました。

ダンスの稽古に参加していると、人間の刹那や瞬間みたいな事をモヤモヤと考えます。常に違った踊りが目の前に立ち上がっては消えていく感じが新鮮だし、生きていれば自分にだってそんな瞬間はあったりするだろうな、とか思ったり。プリマバレリーナのはなさんの動き、島地さんのエッジの利いたフォームを眺めていると、単純に美しくもあるし、小さいコンテクストの中で複雑なアイデアを入れこむのではなくて、もっと正面から表現に向かっていく姿勢も美しく感じたりしました。何と言うか、ふつうに基礎力のものすごい高さがあって、更にその上を表現しにいっちゃう果敢さに彼らと一緒に時間と制作を共に出来たからこそ、もっと大きいスケールでダンスと音楽の領域を捉えることが出来ました。僕はすごいラッキーでした。

結果的に、演出的な音も作曲したし、パ・トゥドゥの4曲、山下達郎のアレンジも関わって、当日は最後部にセットを作ってオペレーションをしてました。この辺りは先日のARICAでのイトケンさんの影響も大きかったし、大谷能生がよく言っている舞台での音響オペレーションの話を何となく聞いていたかいもあって、独特の緊張感と共にやってみました。(先輩の行動は自分の目でよく観て、話はよく聞くべきだな!って思いました。笑)

さて、初日の公演で2人がデュオで踊る「coda」のシーンでパソコンのエラーで音がストップしてしまいました。大アクシデント発生。何もしらないオーディエンスは演出だと思ったらしいのですが、無音の15秒間(踊ってた2人や僕は30分くらいに感じた長~い無音時間・・・)が発生しました。終演後「ごめんなさい!!」と楽屋に直行したわけですが、機材のアクシデントは舞台の魔物のせい、ということになったんだけど、このアクシデントを明日からもやりたい、と僕は島地さんに言いました。無音になってしまった部分を明日から敢えて無音にしていく。もちろん我武者羅では無く、前にも書いたように強いメロディーを畳み掛けていた「coda」の中で瞬間的にサイレンスが訪れた時に、2人の体の動きが作る時間感覚が伸び縮みしたんです。今まであった物が急に目の前から居なくなってしまって、すこし時空が歪む感じってみなさんも経験ないでしょうか。そういう時間の操作を作る、というか、身体表現において永遠の時間と圧縮された時間を考える上で、アクシデンタルに手に入れた技が分厚いメロディの中に急に訪れるサイレントでした。それをOKして、チャレンジしてみよう、と思える島地さんはやはりフォーサイスの元での海外経験があるからだと思いました。さらにそれに付いていくはなさんの柔らかさ。素晴らしいペアだと改めて思ったし、劇場入りをした時にスタッフも増えてしまって大事なことを忘れていたんですが、このアクシデントのおかげでシャキーンと目が覚めて、自分が彼ら2人と一番近い位置で一緒に制作をしていたことを思い出しました。一緒に作ってんだぞ、この作品!っていう根本を見直せました。

毎回ここに書く文章長いって友達に言われるんですけど、まだこのスタイルに飽きていないし、もう少し出来る気がしてます。はい、以上です!

と、神戸に向かう新幹線でこれを書いてました。今日から11月の個展のために関西入りです。今日から3日間は淡路島に滞在します。現地でもフィールドワークをしますが、怒濤の制作続きだったので、個展設営前に頭の中の整理をしたいと思います。淡路島、楽しみだなー。

雑誌のSWITCHで小さい連載がスタートしました。「蓮沼執太・アクティヴィティーズ」というタイトルでやってます。次のエントリーはこの事について書いてみます。11月は展示もライヴもあるので、みなさん芸術の秋という事で、足を運んでみてくださいませ。