伏見瞬による批評(Disc1)

蓮沼執太史上、最もメロディが光る一枚。しかも、メロディの強さは歌や言葉のあるもの以上に、原曲では坂本美雨、環ROY、あるいは蓮沼自身の声が含まれていた楽曲のインストゥルメンタルヴァージョンにおいて発揮されている。たとえば、『Yes』のピアノやいくつかのシンセ音(ブラス風のものやオーケストラ的なもの)はどれも印象的なメロディを奏でており、そこに「環ROYのラップが欠けている」といったような不足感はない。じゃあラップが過剰なのかというと決してそうではなく、ラップが入るとラップ/トラックという二項対立が意識されるため、トラック自体に含まれるメロディの多様性に聴者がなかなか気付けないのだろう。

2曲目『the unseen』のコード進行は6曲目『Acoustic County』とルート音違いでほぼ同じなのだが、受ける印象は大きく異なる。前者のメロディがホーン隊やギターのふくよかなサウンドに特徴づけられているとすれば、後者の口笛やアコーステッィクギターからはいたずらっ子じみた軽快さが漂う。どの音がどのようなメロディーを奏でるかに意識的になることで、楽曲は強い力を帯びる。しかしながら、蓮沼の楽曲は決してその力を誇示することはなく、慎ましげに生活に溶け込む存在であろうとする。

そうしたさりげなさのなかにおいて、空間現代『通過』のリミックスは例外的に強い個性を主張している。鋭くつんのめるバンドサウンドに古川日出男の荒ぶる朗読が重なる10分間。「森」を主題に、人間と言葉の関係をめぐる言葉を次々に吐き出していくその朗読は、人間と音の関係をテーマに持つ蓮沼の活動とも同調する部分があり、そこに普段表出されない蓮沼の怒りや疑念が現れているようにも感じる。蓮沼は人間が人間の世界観のなかで自閉することを断固として拒否する。かわりに、動植物や無機物と人間が音楽を通してどのように関わっていくか、その関係性を新たに捉え直そうとする。「ぼくはくぬぎのドングリ」とはじまる『Acorn』の擬人化に作為性が一切感じられないのはそのためだろう。蓮沼の音楽にはヒューマニズムがない。同時に、蓮沼の音楽には体温がある。この二つの断定は、全く矛盾していない。

伏見瞬

伏見 瞬(ふしみ しゅん)

ゲンロン批評再生塾3期生(東浩紀審査員賞)。東京外国語大学フランス語科卒。10代からバンド活動・作詞作曲など音楽中心に生きてきたが、次第に言語芸術全般に興味を持ちはじめ物書きの世界へ。音楽/現代演劇/映画/小説と幅広く批評活動を展開。
Twitter

Disc1 収録曲一覧

  • Title Commission Type Year
  • 1
    windandwindows MORI Building Others 2016
  • 2
    the unseen Panasonic Beauty CM 2016
  • 3
    Between Here and There J-WAVE Ending Theme 2014
  • 4
    = -instrumental “Miu Sakamoto” Miu Sakamoto Produce 2014
  • 5
    My Philosophy with kotringo Self Collaboration 2015
  • 6
    Acoustic County J-WAVE Opening Jingle 2015
  • 7
    ALMA #30-#40 - Self 2015
  • 8
    Tsuuka remix “Kukangendai feat. Hideo Furukawa” Kukangendai Remix 2015
  • 9
    Ruru Remix “Dudley Benson” Dudley Benson Remix 2014
  • 10
    YES -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2013
  • 11
    Acorn NHK Movie 2016
  • 12
    Travelling Melodies J-WAVE Ending Theme 2016
  • 13
    Medetai -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2017
  • 57
    Communal Music - Sound Installation 2016
  • 58
    Freezing Point blanClass Exhibition 2016
  • 59
    15 Minutes Eternal J-WAVE SELECTION「SHUTA HASUNUMA MEETS ANDY WARHOL」 Exhibition 2014
  • 60
    HT - - 2017
  • 61
    Keihan 鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~alternative train~ Exhibition 2015
  • 62
    windandwindows -Mohri Garden MORI Building Others 2016
  • 63
    Orusuban -instrumental “Akai Ko-en” 赤い公園 Produce 2014
  • 64
    Music for th 01 TARO HORIUCHI Collaboration 2018