金子厚武による批評(Disc4)

「ポップミュージックは社会の映し鏡である」という言説が今も有効ならば、「多様な価値観を認め、共に生きる」という理念が社会全体に浸透しつつある現代において、蓮沼執太がこれまで発表してきた作品は、まさに社会の映し鏡になっていると言っていいと思う。
本稿の主題である『windandwindows』の「DISC 4」は、個展『作曲的 | compositions : rhythm』での作品「the unseen」のサウンドマテリアルとして作曲された20分超の大作「Communal Music」から始まるもので、フィールドレコーディングによるミュージックコンクレート的な色合いの強い楽曲が並び、ブライアン・イーノ、坂本龍一からOPNに至る音楽家の系譜に蓮沼もまた連なっていることを改めて伝えている。また、「環境音と電子音の構成は、僕の基礎とも呼べるかもしれません」という本人のコメント通り、大学で環境学を専攻し、常に時間と空間を意識しながら、「作曲」の定義を拡張し続ける蓮沼のベーシックが刻まれているのが、まさに「DISC 4」だと言えよう。そして、聴き手がその日の気分や体調に合わせ、日常の中で「音」と「音楽」の狭間を自由に泳げるような、この作品の感覚こそが、前述した共生社会と合致する感覚なのだと思う。
少し話は逸れるが、最近様々な場所で目にすることが増えた「#metoo」のムーブメントに対して、僕はちょっとだけ居心地の悪さを感じている。もちろん、女性にとっても男性にとっても、生きやすい社会を目指すことには何の異議もない。ただ、それぞれの事情は全く異なるはずなのに、「metoo(私も)」の一言でまとめられてしまうのがちょっとだけ窮屈で、僕としては「asforme(私の場合は)」の方がしっくりくる。蓮沼の音楽は、まさにこの「asforme」の音楽だと言ってもいい。『windandwindows』は6枚組で全80曲、約6時間半という大作だが、楽しみ方は聴き手一人一人の自由であり、ここには多様性と自立性が共存している。「風通しがいい」というのは、こういうことなんじゃないだろうか。

金子厚武

金子 厚武(かねこ あつたけ)

1979年生まれ。インディーズでのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『リアルサウンド』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。
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Disc4 収録曲一覧

  • Title Commission Type Year
  • 57
    Communal Music - Sound Installation 2016
  • 58
    Freezing Point blanClass Exhibition 2016
  • 59
    15 Minutes Eternal J-WAVE SELECTION「SHUTA HASUNUMA MEETS ANDY WARHOL」 Exhibition 2014
  • 60
    HT - - 2017
  • 61
    Keihan 鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~alternative train~ Exhibition 2015
  • 62
    windandwindows -Mohri Garden MORI Building Others 2016
  • 63
    Orusuban -instrumental “Akai Ko-en” 赤い公園 Produce 2014
  • 64
    Music for th 01 TARO HORIUCHI Collaboration 2018